↑Judge Thomas Buergenthal 今学期、国際機関学(International Organization)の授業を取っているのですが、その一環で、ICJ(International Court of Justice 国際司法裁判所)の一員である、Tomas Buergenthal(読み方が難しい・・・バーゲンタール?)裁判官のお話を聞く機会がありました。
国際司法裁判所といえば、国連(国際連合)に設置された、国と国の間の争いなどについて裁判を行う組織で、いわば世界の裁判所みたいなものですね。
Buergenthal裁判官は、もともとジョージ・ワシントンで教鞭をとられていたという縁があり、今回講演に来ていただいたのですが、たった30人足らずのクラスのために、非常にありがたいお話です。
ICJは、世界の裁判所といっても、いわゆる我々が想像する国内の裁判所と違い、その権限は非常に限られています。
まず、裁判の両当事国が、ICJの管轄を認めなければなりません。例えばある国が、「C国が排出する有害物質のせいで、被害を受けた!」と訴えても、C国が「分かった、裁判所で決着をつけよう」と言わない限り、裁判に持ち込めない、ということになります。
また、仮に、一方当事国が判決に従わなかったとしても、ICJ自身に判決を強制する力はなく、安全保障理事会に必要な対応を求めることができるだけです。
したがって、一般に考えられる裁判所と比べると、非常に弱体で不完全と言われます(実際、アメリカやロシア、中国など、常任理事国クラスの大国は一度としてICJの裁判を受けたことはありません。)。他方で、可能な限り政治的な影響を排し、純粋に法的な見地から裁判を行うため、国際法学の観点からは、高い信頼を得ています(※)。また、その影響力も、国際法の発展とともに、大きくなりつつあります。
(※逆に言えば、政治的に大きな影響を与える判決を避ける傾向がある、ということでもありますが。)
ICJの裁判官は、各国の候補者から選挙で選ばれます(Buergenthal裁判官はアメリカから)。その中でも、トップの所長(President)は、Buergenthal裁判官曰く、「彼の意見が覆された判決を見たことがない」というほどの権威を誇ります。
現在のICJ所長は、実は、何を隠そう日本人だったりします・・・そう、皇太子妃のお父さんである小和田裁判官ですね。実は、自分も言われるまで忘れたのは内緒。
Buergenthal裁判官のお話は、主に、ICJ内の実務に関することで、それはそれで面白かったのですが、実は一番興味深かったのは、ご自身の生い立ちの方だったります。陳腐な言い方になりますが、まさに激動の人生というセリフがぴったりです。
ご出身はWWII前のチェコスロヴァキアだったのですが、幼少期にナチスの絶滅キャンプに入れられ、辛うじて生き残った(家族は母親を残して全員殺害され、母親とは生き別れのまま再会できず)、という凄絶な経験をされました。その後、アメリカに渡り、苦学の末ニューヨーク大学・ハーバード大学を卒業され、主に人権保護を専門として大学にて教鞭をとられていました。
その後、ジョージ・ワシントンロースクールに教授として在籍された後に、2000年から現在まで、ICJ裁判官を務められています。
もちろん、これだけでも十分に凄いことなのですが、特筆すべきは、ナチスによる人権蹂躙を目の当たりにしながら、それでも法による人権の保護を追求されていることでしょう。
なぜなら、ナチスは、ドイツにおいて合法的に権力を獲得したのであり、その上、当時の国際連盟や国際法は、ナチスによる大量虐殺に対して全くの無力だった訳で、いくら法律上で自由や人権が謳われていても、全体社会や権力の前では無力であるという、法の無力さ・はかなさを、一番実感されているはずなのです。
にもかかわらず、法の力を信じ、法を通じて人権を守ろうとするBuergenthal裁判官の精神的な芯の強さ、強靭さには、ただひたすら頭が下がる思いです。
ただ、意外といえば意外なのが、よくもまあアメリカが、というよりはブッシュ前大統領政権が、このような人権を専門とする大学教授を、ICJの裁判官としてノミネートしたな、ということ。(最初のノミネートはクリントン政権時、再任はブッシュ政権時)
何しろブッシュ政権といえば、ゴリゴリのネオコン(超保守)で有名です。例えば、対外強硬路線論者で、内外で物議を醸したボーカー国連大使(※)の任命はその典型といえます。
※「国連などというものはない。あるのは国際社会だけで、それは唯一のスーパーパワーたるアメリカ合衆国によって率いられる」 (There is no such thing as the United Nations. There is only the international community, which can only be led by the only remaining superpower, which is theUnited States.)といった名言(迷言)でも有名なヒト。あなた、国連大使でしょうに・・・。
ですから、ICJの裁判官についても、「テロリストは絶滅絶滅絶滅ぅぅぅ!アメリカの民主主義は世界イチィィィィ!!」的な人がノミネートされていそうなものです。
実際、お話を聞いてみると、ノミネートの際には多少すったもんだがあったようですが、最終的には再任ということで落ち着いたということです。
皮肉な見方をすれば、アメリカはICJの影響力について冷めた見解を持っており(実際、アメリカがICJの裁判に服することは今後もあり得ないでしょうし。何か他国に文句があったら「何調子乗ってんじゃワレェ、カチコミじゃああ!」の国ですから。)、それならばいっそ国際社会に受けのよい人材を送ってイメージ向上を図る、という戦略なのかも知れません。
ともあれ、ブッシュ政権の思惑はともかく、このような方が、アメリカ代表のICJ裁判官として、日本の小和田裁判官とともに活躍されているということは、非常に喜ばしいことですね。
ちなみに、最後に、今後注目されるICJの案件として、コソボの独立宣言を挙げていました。これは、いわゆる旧ユーゴスラヴィアの紛争の舞台となったセルビア・モンテネグロ内のコソボ地区が、一方的に独立を宣言したことに関して、その法的効力を判断するものです。
果たして国家とは何なのか、そもそもICJが国家の存在そのものについて法的判断を下すことができるのか、非常に根源的、かつ論争を巻き起こす問題であり、興味が尽きません。
そういえば、DCの数ある博物館の中に、ホロコースト博物館というものがあります。地球の歩き方にも、「おススメっ♪」と書いてあるのですが、Buergenthal裁判官にお会いして、やはり一度は行かなければならないな、と思いました。とはいえ、広島の原爆資料館でトラウマになりかけた自分にはなかなか荷が重いのが正直なところですが・・・。
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